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お伽噺のような の番外編始めました~!
うまくリンク貼れないorz ので、よければ見にいってやってくださいまし。
ずっと読みたいと言ってもらってました、祥子ちゃんの両親の過去篇です。
こういうことがあったんだよーって話を、智博視点でどうぞです。
あと、おまけといってはなんなんですが。
話自体は土曜日のことなんですが、その前日。金曜日の様子をちらりと。
本当は本編に乗せるつもりで書いてたんですが、改めて読み返したらこの部分いらないよねってさくっとなくしたんですが、でもせっかく書いたし、と。
こんなところを見てくださってる方への、お礼にもならないお礼ですが、どうぞですm(__)m
他の話も書いてますので、また近々アップにきます~!
月に一度、祥子には土曜出勤がある。
いつもの週末は、金曜日に智博がバイトを終えた足で、祥子のマンションへと向かい、そのまま泊まり、翌日の土曜日を―――時には日曜まで一緒に過ごすのが習慣だが、この、月に一度の出勤があるときは、土曜日の祥子の仕事が終わってから待ち合わせをして、日曜日まで共に過ごすようにしていた。
今週は、その月に一度の週に当たり、智博はバイトが終われば自分の家に帰るつもりだった。
だが、今日はあいにくの強風を伴った大雨で、入っていた予約がいくつかキャンセルになり、予約なしの客もいつもよりも少なかった。
こういう天気だから仕方がないとマネージャーは割り切り、いつもよりも早めの営業終了を決めた。ただそうすると、どうしても食材のあまりが多く出てしまう。
普段でも、翌日に回せないものをもたせてもらえることがあるが、この日はいつもよりも多かった。普段ならば前菜として使いきってしまう総菜やデザートを受け取った智博は、迷うことなく祥子へと連絡した。
いつもよりも早い時間の上がり。
相変わらず降り続いていた雨も、駅から出る頃には少しましになっていた。
大通りから続く道を傘を差しながら足早に進み、路地に入ると坂を駆け登る。マンションに到着すると、いつも入り口から窓を見上げる。5階の祥子の部屋の窓から、明かりがついているのが見える。その光を見ると、ほうっと、柔らかな感情が自分の中で生まれた。
違う階にあるエレベーターを待つのももどかしく、階段を駆けあがる。
インターフォンを押すと、すぐに鍵が開き、すっぴんの祥子が顔を出した。
智博を見上げ、口元を緩めるように笑う顔に、疲れも雨に濡れた不快さもすうっと消化されていく。
「おかえりなさい。お疲れさま。雨、大丈夫? 濡れてない?」
「ただいま。土砂降りってほどじゃないけど、結構降ってた。ちょっと濡れたかな」
「これ使って」
水滴を飛ばした傘を傘立てに置き、濡れた靴を脱ぐと、祥子が手にしていたタオルを受け取った。
「ありがと」
傘を差していても防ぎれていない水滴を拭っていく。
「靴、ドライヤーで乾かすね」
「見た目ほど濡れてるわけじゃないから平気。明日には乾いてるって。それより、これ」
靴を見ている祥子の視線をこちらへと向けさせる。
その手に、ビニールに包まれたパックを乗せた。
「ありがとう」
「保冷剤は入ってるけど、少し冷やした方がいいかも」
「うん」
パックを両手に抱えて歩いていく祥子の後ろをついていく。
パックを冷蔵庫に片づける祥子を見ながら、籠にバッグをいれ、着替えを取り出す。
「シャワー借りる」
「お湯張ったままだから、温まって」
有難うと返事をして、バスルームへ向かう。追い炊きをしてくれてたのか、湯はちょうどいい温度だった。
冷えていた身体をじゅうぶんに温めてから戻ると、祥子はキッチンで飲み物を作っていた。
「はい、どうぞ」
ことりとテーブルに置かれた湯気の立つマグカップ。たっぷりと入っているのは、紅茶だった。
しょうがが入っていて、ぴりっとした刺激が喉を通っていく。熱い液体が内側を潤わせた。
同じものが入ったマグカップを自分のそばにおいて、祥子は冷蔵庫から智博の持ち帰ったものを取り出した。
「おいしそう」
パックをあけた祥子は、そう言って柔らかく微笑んだ。
「祥子が好きそうなのだったからさ。うちに持って帰っても、親出張中だし、兄貴あんまり甘いの好きじゃないから無駄になりそうだし」
そう言い訳じみたことを言いながらも、祥子の家にくる口実ができたと喜んでいる自分がいることはちゃんと自覚していた。
本来なら明日まで会えなかったのに、こうして今日一緒に過ごすことができる。そのことがひどく嬉しかった。
「総菜は明日でも大丈夫だから、パンと一緒に朝にでも食べて」
「うん。そうする」
「ケーキは生クリーム使ってるやつは今日中の方がいいって」
「じゃあ、今から頂くね。あなたはどれがいい?」
「俺はどれでも。祥子が好きなの取ればいいから」
「どれもおいしそうだけど、これかな」
祥子は果物とカットされたスポンジの上に生クリームがかかったトライフルを取り出した。智博もイチゴのムースにクリームのデコレーションがかかっているものを取り出す。
「チョコ系は明日ね」
そう言ってパックをまた冷蔵庫に戻す。
「おいしい」
スプーンを口に含んだ祥子はその言葉を示すように微笑んでいる。
「祥子」
顔を上げた祥子の口元に、イチゴのムースを乗せたスプーンを持っていく。
一瞬、きょとんとした表情を見せた祥子は、やがてそれがなにを意味するのかわかったようで、少し困ったように眉を下がらせて―――それでも拒否することなく、口をあけた。
そこへそうっとスプーンをすべらせると、ムースが祥子の口の中へと消える。
軽く口を動かして、それを飲み込んだ祥子が、おいしいととろけるように笑う。
その表情があまりに可愛くて、引き寄せられるように身体を近づけ、キスをした―――